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“桜のころは・・・”の号 2005.4
春には一度桜に関する絵本の特集をしたいと思ってきましたが、これはと言える3冊が、なかなか揃わないでおりました。で、いろいろ当たっているうちに気付いたのが、桜をテーマにした絵本は「教訓的」なものと「桜の魔力に酔わせる」ものとに二分されるのではないか・・・ということ。ピコットがおすすめするなら、勿論酔わせるタイプ。といっても、桜は人に、普段見えていないものを、見せようとしてるのでしょうけれど。 |
がたごとがたごと |
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団体旅行のおばさんたちに、結婚式帰りらしい夫婦、ヤギひげのおじいさん。街の駅からお客さんが乗り込んで、列車は出発します。なんだかちょっと旧式な感じのこの列車、街を抜け、田んぼの脇を走りぬけ、谷あいの「おくやま駅」に到着。ところがところが、降りてきた人(?)といったら!結婚式から帰ってきたのはきつねの夫婦。おじいさんは本物のヤギで、おばさんたちといったら、ブタに羊に牛にサル!この列車は人間と動物の世界を行き来していたのですね。うっかりこんな列車に乗り込んでしまったらたいへん!列車は「よつつじ駅」へ妖怪を、チャンバラ駅へお侍さんたちを運んでいきます。乗り込むときの乗客と降りる時の乗客は、すっかり顔が変わっているのに、誰が誰だかよくわかりますよ。見比べて楽しんでください。・・・なぜこの絵本が桜かって?だって暗い色合いの列車の向こうに、異様に鮮やかな桜の花。この桜の木の横を走り抜けるとき、どうやら乗客がヘンシンしているらしい。う〜ん、このセレクションちょっと強引か?表紙の桜が印象的なのは本当です。 |
ぼんさいじいさま
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木葉井悦子作・絵 |
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じいさまは、手塩に掛けたたくさんの盆栽と、家族同様の動物たちと、おだやかな毎日を送っていましたが、一番大切にしているしだれ桜の盆栽が満開の、春のある日、その桜の枝のから呼びかけてくる者がありました。それは、ちいさなちいさな、ひいらぎ少年でした。ひいらぎ少年は、今日の日はずーっと前から決まっていたことだと、じいさまを「おむかえ」に来たのです。おおそうじゃった、とじいさま。たばこを一服吸い、だいじな桜の盆栽にちょっと触れて、「じゃ、でかけようか」と背筋を伸ばしました。するとじいさまの体も少年ほどになり、可愛がってきた猫のクリや馬のサクラにお別れをして、ひいらぎ少年に手を引かれながら、この世を出て行くのでした。たくさんのさくらの花びらが舞う中を・・・。人の死を、こんな風におだやかに描ける木葉井さん。ご自身も思い掛けず早くに鬼籍に入ってしまわれました。風変わりな作風の作品の中で、この絵本は死を扱っていながらあでやかです。 |
いつか、ずっと昔
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婚約者と出掛けた夜桜見物。満開の桜の下に立ちつくしていた時、れいこは一匹の美しいへびを見ます。不思議な懐かしい気持ちがしてじっと見ているうち、いつか、ずっとむかし自分はへびだったと思い出します。あらわれたへびは彼女がへび蛇だった時の恋人で、思い出した途端、れいこもへびに戻っていました。こうして、結婚を前にした彼女は、ずっと昔へびだった時の恋人や、ぶただった時、貝だった時の恋人と次つぎめぐり合っていくのですが、それは桜の下でぼんやりしている僅かの間のことでした。 江國さんの筆になると、このお話の展開が必然でありロマンチックであるのはすごい。風変わりと言えばこの作品も、テキスト・イラスト共にまことに風変わり、でありながら、切なさと安心感を同時に沸き立たせてくれます。わたしの言葉では説明し尽せませんから、どうぞ手にとってご覧ください。 |