"死についての絵本"特集  2007.5

 今月は、子どもたちにどう伝えるか戸惑う事の多い、「死」についての絵本をご紹介します。このテーマの本は随分とあるのですが、ごまかさず、それでいて小さい人たちに寄り添うことの出来る作品となると、選択に迷います。最終的に手許にあるこの3冊には、「生」も含めた「死」が描かれています。子どもたちが死から再生までを感じてくれると良いのですが・・・。少々重いけれどいつかご紹介したいと思っていた絵本を、緑萌え立つこの季節に。

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ナヌークの贈りもの

星野道夫写真
小学館¥1,533(税込)
* 現在品切れ中
横22cm×縦28.5cm
対象:5歳から

 エスキモーの少年は、ある夜何かに呼ばれて村はずれに行く。そこで見かけたシロクマの後を付いて行くと、彼の耳にナヌークの声が聞こえて来ます。その声は少年に語ります。人間は、氷の世界で生きるのになくてはならない、自然界の言葉を忘れてしまったこと。ミジンコから魚、アザラシ、シロクマ。あるいは小さな虫から鳥、ふくろう、という様に命は引き継がれていくこと。だから消えていく命に祈れ、狩人になるためその言葉を知らなくてはならない、と、ナヌークは少年に呼びかけます。
ナヌークとは、氷の世界の王者シロクマ、少年がやがて若者になった時、命をかけて戦わねばならない相手であるシロクマの敬称。威風堂々としたシロクマたちの写真を背景に、アラスカに魅せられた写真家の語る、神話のような物語りです。自身も熊の命となったカメラマンの遺作。


 



のにっき

 ―野日記―

近藤薫美子
アリス¥1,575(税込)
横28.5cm×縦22cm
対象:5歳から

 親のなきがらの前で、幼い生き物が悲嘆にくれている11月13日。雨に打たれ、日に晒され、小さな虫たちを養いながら、動物の体は崩れていきます。雪の1月23日。冬の終わりの2月26日。春の始まりの5月12日と、亡骸の土に帰っていく様子が丹念に描かれ、最後の場面は5月19日。幼かった幼獣はひとり立ちし、母となって子どもを育てているところで日記は終わります。
小さい人たちに死についてどう伝えるのかは、大人にとって難しい問題です。作者は、たまたま行きあった小動物の死骸をスケッチして、この絵本を作ったとの事ですが、朽ち果てていくその記録に、再生の物語が重なっていて、これなら、大人も子どももいたずらに恐れることなく死を見ることが出来る、と思える作品に仕上がっています。



 

ずーっとずっと だいすきだよ

ウィルヘルム作・絵 
久山太市郎

評論社 ¥1,050.(税込)
横23.5×縦26cm
対象:5歳から

 一緒に育った犬のエルフィーと僕。僕らはなにをするのも一緒だったのに、やがてエルフィーは年を取り始めた。散歩を嫌がるようになり、階段が登れなくなって、寝てばかりいるエルフィーに、僕はいつもいつも言った。「エルフィー、ずーっとだいすきだよ」って。やがて、エルフィーは夜の間に死んで、泣きながら家族みんなで庭に埋めた。でも、ぼくはエルフィーにいつも、「だいすきだよ」って言ったから、エルフィーは僕の気持ちを、きっとわかっていてくれる。
今は、エルフィー以外の犬はいらない。ぼくもいつか又、犬やほかのペットを飼う日が来るだろうけれど、なにを飼っても、毎晩言ってやるんだ。「ずーっと、ずっと、だいすきだよ」と。




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